超音波診断装置の長時間使用でマウス胎仔の脳神経細胞発達に変化をきたしたという研究報告が、米科学アカデミー紀要の電子版に掲載されるという報道がなされました。
胎児に対する超音波の副作用については、本学会の前身である産婦人科ME懇話会の時代から動物実験、疫学調査など様々な方面から検討がなされ、産婦人科臨床で使われている超音波診断装置の超音波は、胎児に対して悪影響を及ぼさないとされてきました。
今回報道された実験は、胎仔の脳細胞がその発達過程で脳内のどこに移動するかという、従来検討がなされてこなかったことに着目している点で評価されるものの、以下の点で、そのまますぐに人の胎児にあてはめることには無理があると思われます。
実験では、同じ部分に超音波が当たり続けているが、人間を対象とした
超音波検査では、観察断面を移動しながら胎児の各部を観察するため、
同じ部分に長時間超音波が当たり続けるということがない。また、マウス
と人間では、脳が発達する時間に大きな違いがあり、実験で影響が出始
めたという使用時間30分は、人間に当てはめた場合、もっと長時間にな
ると推定される。
超音波検査が人の胎児に何らかの影響を及ぼしているかどうかは今後の研究を待たなければ明言できませんが、現在広く行われている超音波検査による胎児の出生前診断が、被検者に多大な益をもたらしていることから、今後も必要な超音波検査を控える必要はないと思われます。
しかしながら、不必要に長時間に及ぶ超音波検査(特に胎児の脳に対して)、診断目的以外(いわゆる"entertainment")の使用は、できるだけ避けることが望ましいと考えます。
2006年8月11日
日本産科婦人科ME学会
会長 馬場一憲 |